構造と作動

概 要

機 能

  1. EBD(Electronic Brake force Distribution:電子制御制動力配分制御)付きABS
    1. クルマが走る・曲がる・止まるためには,タイヤが路面をグリップしてタイヤとしての働きを果たすことが基本になります。しかし,急制動時や雪道・水たまりなどの路面が滑りやすい場所での制動時では,クルマがまだ動いているのに車輪がロックして,タイヤと路面の間でスリップを起こすことがあります。そこでABS(アンチロック・ブレーキ・システム)は,このような制動時に車輪速度を検出し,コンピューター制御にて4輪すべてのブレーキ油圧をコントロールします。この制御により,タイヤロックを防止し,ブレーキ性能を十分確保することで,ハンドルの操作性および車両の安定性を確保します。
    2. EBD付きABSは,従来のABS機能に加えて空車・積載などによる荷重変化に関わらず,前後輪および左右輪の制動力を適切にコントロールすることにより,優れたブレーキの効き性能を確保します。
      1. 前後制動力配分制御
        1. 前後制動力配分制御は,ブレーキの基本機能である“止まる”性能をフルに引き出すことを目的として,車両走行状態に応じた適切な前後輪の制動力配分を実現したものです。これにより積載状態や減速度による荷重変化に応じて後輪の制動力を有効に活用できるようになるため,特に積載時における制動踏力を軽減し,優れたブレーキの効き性能を確保しました。
      2. 左右制動力配分制御
        1. 左右制動力配分制御は,旋回制動時の車両安定性の確保を目的としたもので,左右輪の制動力をコントロールすることにより,制動時の車両安定性を確保しながら,優れたブレーキの効き性能を確保します。
      3. ABSの注意事項について
        1. ABSは,タイヤの実力を超えた性能を引き出す装置ではありませんので,速度・車間距離などに十分注意して安全運転してください。指定サイズ以外のタイヤなど,指定された部品以外の装着時は,ABS制御に悪影響を及ぼします。イニシャルチェック中にブレーキペダルを軽く踏むと重く感じることがありますが,故障ではありません。下記の条件では,ABS作動時の制動距離がABS非装着車と比較して長くなる場合があります。
          1. 条 件
          2. 砂利道,新雪路の走行時。
            タイヤチェーン装着時。
            道路の継ぎ目などの段差を乗り越えるとき。
            凹凸路・石畳などの悪路走行時。

  2. ブレーキアシストシステム
    1. ブレーキペダルを踏み込む速度と量によって緊急ブレーキを判断し,それに基づいた強い制動力を発生させます。
      1. ブレーキアシストの考え方
        1. パニック状態に陥ったドライバーは,緊急制動時に,ブレーキの操作速度は速いものの強く踏めず,小さな制動力しか出せないことがあります。(図中a)
        2. また,こうしたドライバーは,制動後半,ブレーキペダルを長く踏み続けられず,制動力が低下することもあります。(図中b)
        3. 「ブレーキアシスト」は,ブレーキが速く踏み込まれた場合,ドライバーの緊急制動の意志を推定し,あまり強く踏めない場合でも制動力を高めます。(図中c)
        4. 「ブレーキアシスト」は,作動後にドライバーが意識してブレーキを緩めた時には,制動力のアシスト量を減らし,違和感を低減します。(図中d)
        5. ■ 注 意 ■
          1. ブレーキアシストは,ブレーキ本来の実力を超えた性能を引き出す装置ではありません。車速・車間距離などに十分注意して安全運転を行ってください。
          2. ブレーキペダルを急速度で踏んだ場合に,ブレーキが強くかかるようになり,作動音とともにペダルが小刻みに動くことがありますが,これはブレーキアシストが正常に作動しているときの現象で,異常ではありません。

  3. TRC(Traction Control System)
    1. 滑りやすい路面などでの発進・加速時にスロットルを開けすぎると,過大なトルクにより駆動輪がスリップして発進加速性や操縦性を損なうことがあります。TRCは,駆動輪のブレーキ油圧制御とフューエルカットによるエンジン出力制御により,前後駆動輪のスリップを抑え,路面状況に応じた駆動力を確保し,車両の発進加速性・直進性および旋回安定性を確保するシステムです。TRCは以下の特長があります。・滑りやすい路面での発進,加速に必要な微妙なアクセルワークが不要となります。・加速中の優れた操縦性,安定性を実現しています。・旋回中の加速時でも,より安定して旋回できます。・駆動輪左右の路面状況が異なるまたぎ路面でも安定した加速が得られます。

  4. VSC(Vehicle Stability Control System)
    1. ABS,TRCが主にブレーキ操作やアクセル操作に伴う制動時および加速時の安定性を確保を目的としているのに対してVSCシステムは車両の旋回方向の安定性を確保するシステムです。通常,車両はステアリング操作に従い安定的に旋回しますが,路面状況や車速,緊急旋回時などの不測の状況,または外的要因などによっては,強い後輪横滑りまたは前輪横滑り傾向になります。VSCでは,このような場合に安定性を確保させるべくエンジン出力と各車輪のブレーキ制御を自動的に行い,強い前輪横滑りまたは強い後輪横滑りを緩和します。
      1. 制御性能概要
        1. システムは,ヨーレートセンサー,Gセンサーなどの各種センサーからの信号により,車両の状態を感知してブレーキアクチュエーターに制御信号を出力することによるブレーキ油圧制御とフェーエルカットによるエンジン出力トルク制御から構成されます。
        2. タイヤが横方向のグリップ限界を超える状況として2つの例が挙げられます。@ 後輪が前輪に対して相対的にグリップを失いつつある場合。(強い後輪横滑り状態)A 前輪が後輪に対して相対的にグリップを失いつつある場合。(強い前輪横滑り状態)VSCシステムは,次のような状況で作動して,車両の強い後輪横滑りまたは前輪横滑り傾向を緩和します。
      2. 車両状態の判定方法
        1. 車両の状態は,操舵角・車速・車両のヨーレート・車両の横加速度をセンサーにより検出し,スキッドコントロールコンピューターにより演算され,判定を行います。
          1. 車両の強い後輪横滑り傾向の判定
          2. 後輪横滑り傾向は,車体のスリップ角と車体のスリップ角速度の値により判定されます。これは,車体のスリップ角が大きく,かつスリップ角速度も大きい場合,車体は後輪横滑り傾向であるといえます。
          3. 車両の強い前輪横滑り傾向の判定
          4. 前輪横滑り傾向は,目標ヨーレートと実際の車両のヨーレートの値により判定されます。これは,ドライバーがステアリング操舵をした場合に,本来発生すべき目標ヨーレート(操舵量と車速から決定)よりも,実際の車両ヨーレートが少なくなれば,車体が曲がらないことを意味するため前輪横滑り傾向が大きいといえます。
      3. VSCの作動方法
        1. スキッドコントロールコンピューターの判定により,車両状態が強い後輪横滑りまたは強い前輪横滑り傾向にあると判定された場合,エンジン出力を下げるとともに前輪または後輪に制動力を与え,車両のヨーイングモーメントを制御して車両状況を緩和します。
          1. 車両の強い後輪横滑り傾向の緩和
          2. 後輪横滑り傾向が大きいと判定した場合は,その傾向の程度に応じて旋回外側の前後輪にブレーキをかけ,車両の外向きにモ−メントを発生させて後輪横滑り傾向を抑制します。また,制動力による車速の低下に伴い,車両安定性がさらに向上します。
          3. 車両の強い前輪横滑り傾向の緩和
          4. 前輪横滑り傾向が大きいと判定した場合は,その傾向の程度に応じてエンジン出力を制御し,前後輪にブレーキをかけて横力を減少させることにより,前輪横滑り傾向を抑制します。

構造と作動

  1. TRC OFFスイッチ(2WD車のみ)
    1. TRCの作動を停止するスイッチです。モーメンタリスイッチを採用して,スイッチを押すとTRC OFF状態,もう一度押すとTRCON状態となります。

  2. インジケーター & ウォーニングランプ
    1. 各インジケーター類をコンビネーションメーター内に配置して視認性に配慮しました。
      1. ABSウォーニングランプ
        1. ABSに異常が発生した場合,ランプの点灯によりドライバーに知らせます。また,ダイアグノーシスモードでは,ランプの点滅によりダイアグノーシスコードを表示します。
      2. TRC OFFランプ(2WD車のみ)
        1. TRCOFF状態を選択時,またはシステムの異常時にランプの点灯によりドライバーに知らせます。
      3. スリップインジケーターランプ
        1. TRCおよびVSCが作動中,ランプの点滅によりドライバーに知らせます。
      4. VSCウォーニングランプ
        1. VSCシステムに異常が発生した場合,ランプの点灯によりドライバーに知らせます。また,ダイアグノーシスモードでは,ランプの点滅によりダイアグノーシスコードを表示します。
      5. ブレーキウォーニングランプ
        1. ハイドロブースターアクチュエーターのアキュームレーター油圧の低下およびパワーサプライ系に異常が発生した場合,ランプの点灯とブザーの警告音でドライバーに警告します。
      6. 4WDウォーニングランプ(4WD車のみ)
        1. 4WDシステムに異常が発生した場合,ランプの点灯によりドライバーに知らせます。また,ダイアグノーシスモードでは,ランプの点滅によりダイアグノーシスコードを表示します。

  3. VSCブザー
    1. インストルメントパネル内のドライバー席右側に取り付けました。VSCが作動中であることをブザーの断続音によりドライバーに知らせます。

  4. 車輪速センサー
    1. フロント車輪速センサーを左右前輪のステアリングナックル,リヤ車輪速センサーを左右のリヤアクスルキャリアに取り付けました。

  5. ヨーレートセンサー & リニアGセンサー
    1. ヨーレートセンサーおよびGセンサーを一体にして小型化をはかり,シフトレバー前方に取り付けました。
    2. Gセンサーは半導体式を採用しており,車両に加速度が生じるとセンサー内のビームがたわみ,このひずみを計測して電気信号に変換します。VSCおよびTRCではこの半導体式センサーを2個使用し,車両の前後方向に対し,それぞれ45度の傾きになるように取り付けられています。この2個の信号を組み合わせることにより,水平方向のすべてに対して感度を持つことができ,リニア出力特性と相まって様々な路面に対してきめ細やかな制御を可能にしました。
    3. ヨーレートセンサーは車両の鉛直軸方向の回転角速度(ヨーレート,自転速度)を検出します。検出方法は圧電セラミックスの歪み量および方向により検出します。センサー本体の加振,信号処理に専用のICを使用し,小型化とともに信頼性の確保をはかっています。

  6. ステアリングセンサー
    1. コンビネーションスイッチ部に取り付けられており,ステアリングホイールの操舵量と操舵方向を検出しています。
    2. センサーは位相を設けたフォトインターラプターを3組持ち,ディスク板に設けられた切り吹き部とスリットにより光を遮断し,フォトトランジスターをON・OFFして回転を検出しています。
    3. 3組のフォトインターラプターの出力信号をコンビネーションスイッチのマイコン内に取り込み,演算処理した結果をスキッドコントロールコンピューターに送信しています。

  7. ハイドロブースターアクチュエーター
    1. ハイドロブースターアクチュエーターはマスターシリンダー機能,ブースター機能,VSCアクチュエーター機能などを併せ持ます。
    2. ブースターで発生した油圧を直接リヤブレーキに導くことで,マスターシリンダーはフロントのみを制御し,油圧回路の簡素化をはかりました。
    3. 主要構成部品と機能
      構成部品
      機 能
      ポンプモーター
      リザーバーからブレーキフルードをくみ上げ,高油圧をアキュームレーターに供給します。
      アキュームレーター
      ポンプで発生されたパワーサプライ系の油圧を蓄圧します。
      圧力スイッチ (PH/PL)
      アキュームレーター油圧を監視し,ポンプモーターの制御信号を出力します。ポンプ制御用(PH)と低圧時ウォーニング用(PL)の2種類があり,PLはアキュームレーター油圧の低圧時のウォーニング信号も出力します。
      リリーフバルブ
      圧力スイッチ故障などでポンプが連続作動した時に,ブレーキフルードをリザーバーへリリーフし,パワーサプライ系の過剰な高圧を防止します。
      リザーバー
      マスターシリンダー系およびパワーサプライ系のブレーキフルードを蓄えます。
      リザーバーレベルウォーニングスイッチ
      リザーバー内のブレーキフルードの液面低下を検出します。
      マスターシリンダー
      通常ブレーキ時にホイールシリンダーに伝える油圧を発生させます。
      ブレーキブースター
      アキュームレーターの高油圧を踏力に応じた油圧に調圧・導入し,ブレーキの助勢力を発生させます。
      マスターシリンダー圧力センサー
      踏力に応じて発生した油圧を検知します。
      切り替えソレノイドバルブ
      通常ブレーキ時,ABS・TRC・VSC・ブレーキアシスト制御時に応じてブレーキ油圧経路を切り替えます。
      制御ソレノイドバルブ
      ABS,TRC,VSC,ブレーキアシスト制御時にホイールシリンダー油圧を制御します。
      1. ポンプモーターとアキュームレーター
        1. 電気式のポンプモーターを採用しました。アキュームレーターは窒素ガスを内封しており,ポンプにより発生される油圧を蓄圧してます。アキュームレーター油圧が低下すると,圧力スイッチ(PH)がOFFとなり,スキッドコントロールコンピューターを介してハイドロモーターリレーの接点が閉じてポンプモーターが作動します。偏心カムシャフトがこのポンプモーターの回転力を伝達し,このカムシャフトの外周に沿って配置されたシリンダー内のピストンが,カムシャフト回転時に往復運動を行うことで,中心側に移動するときブレーキフルードを吸入し,外周側に移動するとき加圧されたブレーキフルードを吐出します。吐出されたブレーキフルードはチェックバルブを経てアキュームレーターに蓄圧されます。以上の動作により,通常制動時,ABSおよびTRC,VSC,ブレーキアシスト作動時に必要なパワーサプライ系の油圧(高圧)を発生させます。また,アキュームレーター油圧が低下すると圧力スイッチ(PL)がOFFとなり,ブレーキウォーニングランプを点灯させるとともに,ブザーを作動させます。次にアキュームレーター油圧が上昇すると圧力スイッチ(PH)がONとなり,ポンプモーターの作動が停止します。この時,圧力スイッチが故障した場合はリリーフバルブが開き,過剰な圧力上昇を防止します。
      2. 圧力スイッチ (PH)
        1. アキュームレーター油圧をロッドおよびスプリングで受け,内部のマイクロスイッチを作動させます。また,ポンプモーターを作動させる圧力が低下した場合にはPH低圧信号を,高圧時にはPH高圧信号をスキッドコントロールコンピューターに入力します。
      3. 圧力スイッチ (PL)
        1. アキュームレーター油圧をロッドおよびスプリングで受け,内部のマイクロスイッチを作動させます。アキュームレーター油圧が低下した場合にはPL低圧信号を,高圧時にはPL高圧信号をスキッドコントロールコンピューターに入力します。
      4. リザーバー, レベルウォーニングスイッチ
        1. リザーバーには,マスターシリンダー(前輪系・後輪系)とポンプへの供給口,ブースターおよび各ソレノイドバルブからの戻り口が設けられています。
        2. レベルウォーニングスイッチを設定し,ブレーキフルード量の検出を行っています。
      5. マスターシリンダー, ブレーキブースター
        1. ブレーキペダルと直結したオペレーティングロッド,パワーピストン,マスターシリンダーピストン,レギュレーターピストン,ブレーキフルードの経路を切り替えるスプールバルブ,リアクションロッド,圧力に応じて変形するゴムリアクションディスクから構成されます。
        2. オペレーティングロッドとパワーピストンは直結され,ペダル操作力が伝達されるレギュレーターピストンとスプールバルブは直結されています。レギュレーターピストンには,マスターシリンダー圧力が前進方向(左向き)の力,ブースターの助勢力が後退方向(右向き)の力となって釣り合い関係を作り出しています。また,レギュレーターピストンにはリターンスプリングが接地してあり,圧力が無い場合のスプールの戻り力を確保しています。
          1. 増圧時 (低油圧)
          2. ペダル操作力がオペレーティングロッド→パワーピストン→マスターシリンダーピストンに伝達されると,マスターシリンダーのリターンスプリングがレギュレーターピストンのリターンスプリングよりセット荷重が大きいため,マスターシリンダーが圧縮されるより先にレギュレーターピストンが押され,スプールバルブが前進します。
            スプールバルブは,リザーバーとブースター室の経路を閉じ,同時にアキュームレーターとブースター室の経路を開き,ブースター室(パワーピストンの背面)に圧力が導入され,ブレーキペダル踏力を助勢します。
            ブースター室に圧力が導入されると助勢力がリターンスプリング力に打ち勝ち,マスターシリンダーが圧縮され,フロントブレーキを昇圧させます。
            ブレーキ作動初期にはゴムリアクションディスクにかかる圧力が小さいため,リアクションロッドを介してスプールバルブに右方向の戻り力を与えません。
          3. 増圧時 (高油圧)
          4. 低油圧時に対し,ゴムリアクションディスクにかかる圧力が大きくなり,変形してリアクションロッドを介してスプールバルブに戻り力を伝えます。
            レギュレーターピストンには,ブースター室の圧力とスプールバルブ軸力による戻り力が働き,低油圧時に対してペダルに伝わる反力が大きくなります。従って,高油圧時はサーボ比(ブースター室圧力と反力の比)が低油圧時より低くなる可変サーボ機構となっています。
          5. 保持時
          6. ペダルからの入力とマスターシリンダー圧が釣り合った状態です。
            レギュレーターピストンの前後にかかる力,つまりマスターシリンダー圧力とレギュレーター圧力によって発生した力が釣り合った状態であり,スプールバルブはブースター室とアキュームレーターの経路もリザーバーの経路も閉じています。
          7. 減圧時
          8. 保持状態からさらにペダルからの入力を抜くと,マスターシリンダー圧力が下がるため,レギュレーターピストンの戻し側の力が相対的に大きくなり,レギュレーターピストンがさらに後退してリザーバーとブースター室との通路を開きます。この状態でブースター圧が減圧され,新たなペダル入力に対する釣り合い状態に入ります。この繰り返しにより,ペダル入力に応じたブースター圧,マスターシリンダー圧の減圧がなされます。
          9. パワーサプライ故障時
          10. 何らかの理由によりアキュームレーター圧が損なわれた場合,レギュレーターから圧力が供給されないため,ペダルからの入力の助勢とリヤブレーキの昇圧ができません。しかし,フロントブレーキはマスターシリンダーにより,踏力に応じて昇圧されます。
      6. 切替ソレノイドバルブ (SA1, SA2, SA3, STR)
        1. スキッドコントロールコンピューターからの制御信号でバルブを開閉させ,ブレーキフルードの経路を切り替えます。切替ソレノイドは4つ(SA1,SA2, SA3, STR)設定して,SA1, SA2はフロントブレーキの通常ブレーキ時とABS作動時とTRC,VSC,ブレーキアシスト作動時に切り替わります。SA3,STRは通常ブレーキ,ABS作動時とTRC,VSC,ブレーキアシスト作動時に切り替わります。
      7. 制御ソレノイドバルブ [(S**H・・・SFRH, SFLH, SRRH,SRLH) (S**R・・・SFRR, SFLR, SRRR, SRLR)]
        1. スキッドコントロールコンピューターからの制御信号でバルブを開閉させ,ブレーキフルードの経路を切り替えます。制御ソレノイドは車両に8個(車輪にそれぞれ2個)設定しており,S**HおよびS**Rソレノイドバルブの作動の組み合わせにより,増圧・保持・減圧モードを切り替えています。

  8. マスターシリンダー圧力センサー
    1. ハイドロブースターのマスターシリンダー部に取り付けられ,マスターシリンダー内のリヤ側油圧をリニアに検出して,スキッドコントロールコンピューターに出力しています。

  9. スキッドコントロールコンピューター
    1. 各センサーからの信号およびエンジンコントロールコンピューターとの通信により,通常ブレーキ,ABS,TRC,VSCおよびブレーキアシスト制御を行います。
      1. システムプライマリーチェック
        1. イグニッションスイッチON後,3秒間ABSウォーニングランプ,TRC OFFランプ,VSCウォーニングランプおよびスリップインジケーター,ブレーキウォーニングランプを点灯し,各システムのプライマリーチェックを行います。
      2. ダイアグノーシス機能
        1. 新ダイアグノーシス対応として、サービス性の向上をはかりました。なお、ダイアグノーシスの診断方法,診断項目については修理書を参照してください。
      3. フェイルセーフ機能
        1. スキッドコントロールコンピューター,各センサー信号,アクチュエーター系統に異常が発生した場合,スキッドコントロールコンピューターがブレーキアクチュエーターへの通電を禁止し,エンジンコントロールコンピューターにはスキッドコントロールコンピューターに異常が発生したことを送信します。その結果,ブレーキアクチュエーターは各ソレノイドをOFFにし,エンジンコントロールコンピューターはスキッドコントロールコンピューターからのスロットル要求開度を受け付けなくなり,ABS,TRC,VSCおよびブレーキアシストシステムが付いていない状態と同等の走行状態を確保します。

  10. システム作動
    1. EBD付きABS作動
      1. 保持・減圧ソレノイドバルブ,ポンプおよびリザーバーの作動により4輪の制御を行っています。
      2. EBD付きABS作動
        ABS非作動
        通常ブレーキ
        -
        -
        ABS作動
        増圧モード
        保持モード
        減圧モード
        保持ソレノイドバルブ
        OFF
        ON
        減圧ソレノイドバルブ
        OFF
        ON
        ポートa
        ポートb
        ホイールシリンダー油圧
        油圧をかける
        油圧を保持する
        油圧を抜く
        切り替えソレノイドバルブ
        OFF
    2. TRC作動
      1. アクチュエーター内ポンプで発生させた油圧を切り替えソレノイドで必要圧に調整し,後輪(駆動輪)ホイールシリンダーに導くことによってブレーキを作動させ,駆動力による車輪のスリップを抑制しています。
      2. TRC制御作動
         
        TRC非作動時
        TRC作動時
        増圧モード
        保持モード
        減圧モード
        フロント輪
        切り替えソレノイドバルブSA1
        OFF
        切り替えソレノイドバルブSA2
        OFF
        保持ソレノイドバルブ
        OFF (開)
        減圧ソレノイドバルブ
        OFF (閉)
        ホイールシリンダー油圧
        -
        -
        -
        -
        リヤ輪
        切り替えソレノイドバルブSA3
        OFF
        ON
        切り替えソレノイドバルブSTR
        OFF
        ON
        保持ソレノイドバルブ
        OFF (開)
        ON (閉)
        減圧ソレノイドバルブ
        OFF (閉)
        ON (開)
        ホイールシリンダー油圧
        -
        油圧をかける
        油圧を保持する
        油圧を抜く
    3. VSC作動
      1. VSC制御は,アクチュエーター内ポンプで発生させた油圧を各輪ホイールシリンダーに導き,ブレーキを作動させることにより,後輪横滑りまたは前輪横滑りを抑制しています。
      2. VSC制御作動
         
        VSC非作動時
        VSC作動時
        増圧モード
        保持モード
        減圧モード
        フロント輪
        切り替えソレノイドバルブSA1
        OFF
        ON
        切り替えソレノイドバルブSA2
        OFF
        ON
        保持ソレノイドバルブ
        OFF (開)
        ON (閉)
        減圧ソレノイドバルブ
        OFF (閉)
        ON (開)
        ホイールシリンダー油圧
        -
        油圧をかける
        油圧を保持する
        油圧を抜く
        リヤ輪
        切り替えソレノイドバルブSA3
        OFF
        ON
        切り替えソレノイドバルブSTR
        OFF
        ON
        保持ソレノイドバルブ
        OFF (開)
        ON (閉)
        減圧ソレノイドバルブ
        OFF (閉)
        ON (開)
        ホイールシリンダー油圧
        -
        油圧をかける
        油圧を保持する
        油圧を抜く
    4. ブレーキアシスト作動
      1. 緊急ブレーキが踏まれた場合には,切り替えソレノイドバルブを作動させることによってアキュームレーターの油圧を各ホイールシリンダーに出力します。
      2. ブレーキアシスト制御作動
         
        ブレーキアシスト非作動時
        ブレーキアシスト作動時
        フロント輪
        切り替えソレノイドバルブSA1
        OFF
        ON
        切り替えソレノイドバルブSA2
        OFF
        ON
        保持ソレノイドバルブ
        OFF (開)
        減圧ソレノイドバルブ
        OFF (閉)
        ホイールシリンダー油圧
        -
        マスターシリンダー以上に増圧
        リヤ輪
        切り替えソレノイドバルブSA3
        OFF
        ON
        切り替えソレノイドバルブSTR
        OFF
        ON
        保持ソレノイドバルブ
        OFF (開)
        減圧ソレノイドバルブ
        OFF (閉)
        ホイールシリンダー油圧
        -
        マスターシリンダー以上に増圧